発明は現場で磨かれる!


昔の当事務所webサイトに掲載していた記事の発掘・リサイクルシリーズ。

今回は2001年当時ブームになっていた、ビジネスモデル特許に関するコラムです。


以下の内容・肩書き等は2001年1月掲載当時のものです。ご注意ください。


◆ビジネスモデルはでっちあげ?
先日ある雑誌で「ビジネスモデル特許は単なるアイデアが特許になりうるので、発明を机上ででっち上げることも可能だ」という発言を目にした。
確かに、実験や検証を積み重ねて形にしていくこれまでの技術中心の特許と違い、ビジネスモデル特許はアイデア中心ではある。


◆ビジネスモデル特許専門会社
米国の「ビジネスモデル特許専門会社」の様子をみてみよう。
「逆オークション」で有名なプライスライン社の副会長であるジェイ・ウォーカー氏は、ウォーカー・デジタル社とウォーカー・アセット社も保有している。
ウォーカー・デジタル社は、社内にビジネスモデルの発明家と特許専門の弁護士を抱えている。プロジェクトごとにブレーン・ストーミングを開いて討論を繰り広げ、生まれてくるアイデアを次々に特許出願するいわばビジネスモデルの発明会社。アセット社はデジタル社で取得した特許を管理する特許管理会社とのこと。


1998年4月7日~2000年10月24日に特許になったウォーカー・アセット社及びプライスライン社の所有する発明、43件を分析してみた。
すると、これらは同じ分野であってもそれぞれ個別のもので、相互の関連性は希薄であった。 
ウォーカー・デジタル社の発明手法は、社内発明家が考えつくアイデアを次々に出願してはいるものの、出願後、基本特許及び周辺の改良特許に関するマネジメントまでは充分に行われていないのではないかと推察される。


◆事業と特許
特許をビジネスに活用するためには、パテントポートフォリオ戦略の視点が不可欠である。
パテントポートフォリオ戦略とは複数の特許を束と考える概念で、事業計画に沿って開発分野を絞り込んで投資し、その後も市場の動向や事業の収益性に合わせて出願戦略を見直す等して、特許の束の価値が常に最大になるよう進める戦略である。
いかに画期的な特許であっても、単独では戦力にはならない。
知財全体として様々な角度から事業をとらえて出願する。
出願後も継続して実際の事業の状況を踏まえて改良案を積み上げる。
さらに知財の束全体で方向性を見直す。
ビジネスモデル特許かどうかに関わらず、重要なのは継続して全体で現場を通して知財を事業を磨き続けていくことだ。


発明専門の会社内で発明を生み出す手法は、従来の枠にとらわれない自由で新しい発明が出現するという利点はある。
しかし、机上で個別に生み出され、その後の「現場」とのすり合わせもない状況でパテントポートフォリオ戦略を展開したり顧客の満足度を高めたりすることができるのか疑問に思う。 


先に述べたプライスライン社は、顧客の支持を受けることができず、急激な業績悪化に見舞われているようだ。
机上の論理に陥ることなく、ビジネスモデル特許を文字通りビジネス運営に活かすことができるよう、弁理士としても心掛けていきたい。



「ビジネスモデル特許」の響き自体がものすごく懐かしい感じがします(笑)。
この記事の後「発明会社」としての動きはなりをひそめ、近年のプライスライン社はホテル宿泊の格安予約での事業で業績をのばしているのだとか。
やっぱり、現場でしょ。 (T)